「男子生徒のアタックをかわす女教師」
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☆みやびのココロ(第25号)1998.09.03
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife/4737/miyabi/25.html
*) みやびのココロ; 高校生を相手に奮闘する女教師の日常をコミカルに描いたエッセー
今回。
決して言及するまいと心に誓っていた「女教師&男子生徒ネタ」をやっぱり書いてしまおうと思っている信念のなさ!!
前号で「そんなネタはない!!」とキッパリ断言したばかりだと言うのに…
…………私にはポリシーってモノがないの?
ま、ネタがないのは確かなんですけどね。
前号で書いたとおり、「女教師と男子生徒の間に恋愛関係が結ばれるのは極めて稀であり、私の周りには一つも例がない。」ということに変わりはありません。
しか〜し!!
「男子生徒のアタックをかわす女教師ネタ」なら書けるのです!!
でも、このネタについては今まで意識して避けてきました。
なぜなら……………その理由は以下の2点。
1.自分の経験談を書くしかないので、どうしても、「私ってモテるのよ〜。」みたいな話になってしまい、イヤな女のイメージが定着して女性読者が(さらに)減る。
2.こんな私に思いを寄せてくれた生徒の純情をネタにするのはさすがに胸が痛む。
しかし、私は考えました。
卒業してだいぶ時間がたっている生徒のネタなら、もう時効成立ということで、許されるのではないか?(←何が時効なのか自分で書いてて意味不明。)
しかも、その卒業生は今(おそらく)年下の可愛い彼女とラブラブで幸せモードのはずだし、彼にとってももはや「セーシュンのほほえましい思い出」の一つになっているはずのエピソードを書くことは、それほど罪にはならないのではないか?
と、勝手に自分を納得させるイケナイ私。
書くぞ!!
〈注意事項〉
はっきり言って、教員はモテます。どんなヤツでも教員やってれば熱烈なファンの一人や二人はつきます。教員じゃなかったら一生異性と縁がなかったんじゃないだろーかと思われるようなレベルの人でも十分モテます。
だ・か・ら…………こんな私にもファンがいたんです。一応。
て、ことで、ひろーいココロで、読んでね。
(ふ〜、しかし、長い前フリであった……。)
それは今から数年前………
私が初めてプロとして教壇に立つことになった4月某日。
私は極度の緊張に強張りつつ、初出勤をしました。
教壇に立つのは教育実習以来です。
おバカな私は、初めての授業の前に、教頭先生の机へ行って、
「あの〜。授業、私一人で行っていいんでしょーか。」
などと訊く始末。
教頭先生は
「は?」
ポカンと私を見上げ、
「…………はあ。いーんですよ。」
と答えてくださいました。
本当に、こんな未熟な私を一人で授業に行かせていいのか?!
と、その時の私はマジで考えていました。
こんな私を雇うなんて、県教委はなんて大胆なんだろう、としみじみ思ってしまうくらい、自分の能力のなさには自信がありました。
ビクビクしながら教室の前まで行くと、いかにもヤンキー風といった男子生徒が一人、廊下に座っていました。
私はコワさも忘れてじっと彼に見入ってしまいました。
短ラン、ボンタン、ひさし頭という、「今時こんな高校生がいるのか?!」
と思ってしまうような、古き良き不良少年の伝統(?)をカンジさせるスタイルそのものだったからです。まさに、「絶滅したニホンオオカミを発見!」というような衝撃でした。
「先生、新しい先生?」
と彼は細いつり目を光らせて私に訊ねました。
私はおどおどしつつ、
「そ、そうだけど……。」
と答えると、彼はニッと笑って、
「ラッキ〜〜!!」
と言いながら教室へと入っていきました。
それがB君との衝撃の出会いでした。
「ラッキー」なんて言ったクセして、B君は私の授業でいつも爆睡状態でした。揺り起こしても全然起きてくれないし、口のきき方はブッキラボーだし、ヤル気のないB君の態度に、新任の私はオロオロするばかりでした。
しかし、そんなB君はなんとHR委員だったりしたのです。しかも生徒総会で議長を務めるほどでした。その上皆勤で、朝も一番に学校に来るような生徒でした。さわやかな早朝の空気にちょっと馴染まないひさし頭ではありましたが…
B君は結構マジメでシャイな男の子だったのです。
恐ろしげな服装がそんな彼の素顔を隠していたので、未熟者の私はそのことに気づくまでにだいぶ時間がかかってしまいました。
その頃免許のなかった私は学校まで自転車で通勤していました。
ある日、私が校舎脇の自転車置き場に自転車を停めていると、B君が非常口を開けて出てきて、
「はい。」
と一通の手紙を差し出し、私が受け取ると、そのまま何も言わずに引っ込みました。
ペンギンの絵の付いた可愛らしい封筒で、それとお揃いの便箋に、女の子みたいな丸文字で、私への思いが綴ってありました。
彼は私が好きなのか?!
これはビックリ。
というカンジでした。
だって彼はいつも反抗的だし、ブッキラボーだし、私の授業はいつも寝ていて聞いちゃいないのに………
しかし、手紙を見ると、
「また授業中、優しく起こしてね。」
などと書いてあります。
優しく???
何ノーテンキなこと言ってんのよ、私は寝られてムカついてんのよ!!
と、一瞬思いましたが、別に私がキライで爆睡していたわけじゃないんだ、と思うと少しほっとしました。
それから数ヶ月の間、B君の手紙攻撃は毎日続きました。早起きの彼は毎日自転車置き場で手紙をくれました。
「長ランの裏地に先生の名前を刺繍した。」などと、ヤンキーらしいことを書いてくることもありましたが、B君が自分で刺繍をしている姿を想像するとなんだか、コワイようなカワイイような……。
しかし、モチロン私にとってB君は生徒の一人でしかなく、恋愛対象にはなりません。だいたい、私は小学生の時「菅原文太のお嫁さん」になるのが夢だったくらいの「オヤジ好き」ですから、生徒でなくても若い子はダメです。
教職について経験の浅い私は、最初のうち、
「B君を傷つけないように断るにはどうしたらいいのか………。」
と真剣に悩み、
「生徒はそういう対象にならないのよ。」
などとシリアスにB君に伝えたこともありました。
しかし、B君はめげず、
「一緒にディズニーランドに行ってくれなきゃ退学してやる〜。」
と職員室で暴れて無理難題乱暴狼藉をつきつけてくるようになったので、最後の方は私もメンドーになって対応がエラク素っ気なくなり、
「先生、今夜電話していい?」
「ヤダ。」(←気遣いのカケラもない。)
「……………。」
などと言う会話がB君と交わされるようになりました。
そして、B君は、
「オレ、昨日は泣きながら眠った。だって先生、冷てーんだもん。」
などと手紙に書いてくるようになりました。
しかし、B君の私への思いは、しょせん、若い頃にありがちな一時の「気の迷い」でした。
数ヶ月後、B君は下級生の女の子とつきあい始め、その子との馴れ初めなどを私に話してくれるようになったのです。
まさに、「憑き物が落ちた」というカンジのB君の変わり様でした。
卒業してからもB君はたびたび私に電話をくれましたが、それは、仕事の話だの彼女の話だのをするためでした。そんな話の中で、ふとB君が言ったある言葉を思い出します。
「オレ、自分の周りの誰も失いたくないんだよ。一度できた人間関係は、ずっと持ち続けていきたいんだよ。今の友達も、高校時代の友達も、先生も……………。」
B君は寂しがり屋なんだなあ、と思いました。
でも、その寂しがり屋のB君が、ここ数年、連絡をくれません。
新しい人間関係で充実しているのだったらいいなあ、と思います。
ちょっと「恋愛」から話はズレますが、頻繁に連絡をくれていた卒業生から連絡が来なくなるのは、私にとって、寂しいと同時にうれしいことでもあります。
新しい人間関係の中に、自分を位置づけることができたのだろうと思うから。
高校時代の教師のことなんか忘れて、自分自身の力で新しい未来を育んで行ってほしい。
それが、教師の本望だと私は思っています。
う〜ん、なんだか、シリアスになってしまったぞ?
しかし、B君、ごめんね。キミをネタにしてしまった。
でも、きっとB君なら許してくれる…………(←チョー勝手。)
私、告白しますが、卒業生の男の子と二人で、ディズニーランドに行ったことがあります。森高千里のコンサートにも行ったことがあります。ドライブしたこともあります。(B君ではない。)
「でも、別にデートしたわけじゃないよ。」
と同僚(男)に言ったら、
「そ〜ゆ〜のをデートとゆーんじゃ〜〜〜!!!!!!!!!」
と言われてしまった……………
そーなんですか?
でもやはり、それでもしつこく言うぞ。
「ほとんどの女性教員にとって、生徒は恋愛対象ではない!!」
それにしても、ここまで書いてしまった自分がコワイ……